虫歯
虫歯の原因
虫歯菌は、現在のところ10種類ほどが確認されています。そのうちの代表的な虫歯菌が「ミュータンス菌」です。
ミュータンス菌は、食べ物・飲み物に含まれる糖質から、乳酸とともにグルカンと呼ばれる粘り気のある物質を作り出します。これが歯面に付着して歯垢(プラーク)を形成します。歯垢の中ではミュータンス菌が酸を産生し、この酸によって歯面のカルシウムが溶け出してしまいます。
歯の再石灰化を促す唾液は、歯垢の中には届きません。つまり、ブラッシングの不足、食事内容や食習慣などによって歯垢が蓄積している場合には、カルシウムの溶け出しがひどくなるとともに、再石化作用が機能しないために、エナメル質に穴が空いてしまうのです。これがいわゆる「虫歯」と言われる状態です。
エナメル質に空いた穴は、その後再生することはありません。悪化すると穴が大きくなり、歯髄(血管・神経)にまで到達し、最悪の場合には歯が抜け落ちてしまいます。
虫歯の症状と進行
虫歯の症状として代表的なのが「痛み」です。しかし、初期のうちにはこの痛みも現れません。
「痛くなったら歯医者に行こう」という認識が間違いであるのは言うまでもありませんが、逆に、痛みのないうちに発見・治療ができれば、歯を削らずに治す(フッ素塗布とセルフケアなどによる治療)ことも可能です。
痛みをはじめとする諸症状がほとんどないうちに発症してしまうのが虫歯です。早期に発見・治療をするためには、定期的な歯科検診で歯科医・衛生士のチェックを受けるのがもっとも効率的な方法です。
また、虫歯の症状は痛みだけではありません。また、痛みにも種類があります。虫歯の進行の程度によって、以下のように、その現れ方が異なります。
C0
カルシウムの溶け出しがあるものの、穴は開いていない初期の段階です。痛みなどの症状もありません。
この段階であれば、フッ素塗布やセルフケアなどで、歯を削らずに治すことが可能です。
C1
エナメル質に穴が空いている段階です。まだ痛みはありません。
穴の部分が黒っぽく変色することがあります。
C2
エナメル質の下の象牙質に虫歯が到達している段階です。この頃から、痛みが現れ始めます。
また、甘い物、冷たい物がしみるという症状も見られます。
C3
象牙質の下の、歯髄(神経や血管)に虫歯が到達している段階です。強い痛みが伴います。
熱いものがしみる症状が見られます。
C4
歯がほとんど解けてしまった段階です。歯髄が死んでいるため、痛みがなくなります。
ただ、さらに虫歯が進行し、歯の根にまで到達すると、顎の腫れ、強い痛みなどの症状を伴います。
虫歯を放置した場合
虫歯は、放置すればするほど、治療が大変になります。治療時間が長くなり、治療期間が長くなり、治療に伴う痛みも大きくなります。
大きく削れば詰め物ではなく被せ物が必要になりますし、さらに悪化している場合には、入れ歯やブリッジ、インプラントも選択肢に含めて考えねばなりません。
現在では、歯を大きく削っても、また失ってしまっても、セラミックやインプラントを活用することできれいに治せるようになりました。しかし、いずれも人工物による治療であることには変わりありません。100%もとのお口に戻るわけではないのです。
ご自身の天然歯をできるだけ抜かずに、できるだけ削らずに治すことは、その歯や周囲の歯、お口、そして身体の健康の維持へとつながります。虫歯の放置はもっての他ですが、当院では一人でも多くの方に定期健診に通いながら、予防歯科に取り組んでいただきたいと考えております。
虫歯の治療
ごく初期の虫歯(CO)であれば、フッ素塗布とセルフケアで、歯を削らすに治すことができます。
C1以降の虫歯の場合、虫歯を削った上で詰め物や被せ物を取り付ける治療、または根管治療が必要になります。
さらに虫歯が進行し歯を失ってしまった場合には、入れ歯、ブリッジ、インプラントが適応となります。
根管治療が必要となるケース
虫歯が歯髄(神経や血管)に達してしまった場合には、歯髄の詰まった根管を丁寧に洗浄・消毒し、薬剤を充填する「根管治療(歯内療法)」によって、その歯を残せることがあります。
※その後、被せ物を取り付ける治療も必要になります。
ただし、「歯を残せる」という大きなメリットがある一方で、歯髄が死んでしまうと、以前のように栄養が行きわたらず、歯が脆くなってしまいます。また、痛みを感じなくなりますので、万が一虫歯が再発した場合も、その発見が遅れる可能性が高くなります。
根管治療が必要になる前に治療を受けることが、歯を少しでも健康な状態で残すためには重要になります。
虫歯の予防
虫歯や歯周病の予防においては、ご家庭で行う「セルフケア」、定期的に歯科医院で行う「プロケア」が重要になります。
しっかり磨けているという自信のある方でも、ほぼ確実に磨き残しが存在します。歯石取りなどは、ご家庭ではできない処置ですので、定期的な歯科医・衛生士によるチェック・ケアを受け、より確かな予防につなげましょう。
歯周病
歯周病の危険性
歯周病は、歯を失う原因になります
私たちは、どんなときに「歯を失う」のでしょうか。実は、歯を失う原因でもっとも多いのは、虫歯や事故ではなく歯周病です。
歯周病は、顎の骨が吸収される(溶ける)病気です。土台となる顎の骨を失うことで歯がぐらつきはじめ、適切な治療を受けずに放置していると、最終的に脱落してしまうのです。
歯周病は、糖尿病などの全身疾患のリスクを高めます
歯周病になると、歯周ポケットが深くなり、歯ぐきから出血することがあります。
口腔内の歯周病菌は口の中で悪さをするだけでなく、血液に乗って全身へと運ばれ、糖尿病の発症リスクを高めることが分かっています。
糖尿病以外では、動脈硬化による脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、あるいは誤嚥性肺炎との関連性が指摘されています。
また、歯周病の妊婦さんは、健康な妊婦さんと比べて、早産・低体重児出産のリスクが高まるという報告もあります。
歯周病の進行
歯肉炎
表面的に歯ぐきに炎症が起こっている段階です。
歯ぐきの腫れ、ブラッシングの際の出血などの症状が見られます。
軽度歯周炎
顎の骨が溶け始めている段階です。
出血、口臭などの症状が見られます。深くなった歯周ポケットは、セルフケアではきれいにすることができません。
中度歯周炎
歯の根の近くの骨が溶けている段階です。
土台となる顎の骨が少なくなるため、歯がぐらつき始めます。また、歯ぐきから膿が出ることもあります。
重度歯周病
歯の根を支える顎の骨が、半分以上溶けている段階です。
歯のぐらつきが大きくなります。ここまで進行すると、食事が困難になるほどの痛みが生じることもあります。
歯周病の原因
歯周病の原因は、歯周病菌と呼ばれる細菌です。適切なブラッシングができていないと、歯の裏側や歯間、歯周ポケットなどにプラークが蓄積していきます。このプラークの中で歯周病菌が繁殖し、歯ぐきに炎症を引き起こします。
なお、プラークが固まったものを歯石と呼びます。歯石は、それ自体は悪さをしないものの、小さな穴がたくさん空いていますので、そこで細菌が繁殖しやすくなります。歯石はセルフケアでは除去できませんので、定期的に歯科医院で歯石取りをしてもらう必要があります。
また、歯ぎしりや食いしばり、喫煙、ストレス、糖尿病などの全身疾患も、歯周病の発症・進行リスクを高める危険因子です。
歯周病が原因で起こる口臭
歯周病は、口臭を引き起こすこともあります。
そもそも歯周病は口腔内の衛生環境が悪い(プラークが溜まっている)ことに起因しているため、細菌が繁殖しやすく、自然と口臭につながりやすくなります。
歯周病は症状の現れにくい病気です。口臭が気になるという方は、一度歯周病の検査を受けることをおすすめします。
歯周病はうつる?
歯周病菌は、キスなどで人から人へとうつります(感染)。
ただし、歯周病が発症するかどうかはまた別問題です。適切なセルフケアとプロケアに取り組んでおり、口腔環境が良ければ、発症・進行する可能性は低いと言えます。
歯周病のセルフチェック
歯周病は、症状の現れにくい病気です。症状がないうちから受診して予防するのがベストです。
以下のような症状が見られる場合には、歯周病、あるいは他の口腔トラブルを起こしている可能性が高いと言えます。
- 起床時に口の中が気持ち悪い、ネバついている
- ブラッシング時、あるいは普段から出血する
- 歯ぐきがムズムズする、かゆい、痛い
- 歯ぐきが濃い赤色をしている
- 歯ぐきが腫れている
- 歯ぐきが下がり、歯が長くなったように見える
- 硬い物を噛めなくなった
- 歯間が広くなり、食べ物が詰まる
- 口臭を指摘された
歯周病の治療
歯周病の治療でまず行うのは、歯周基本治療です。
特殊な器具を使用し、ブラッシングでは取り除けないプラーク、歯石を除去し、ご自宅では適切なセルフケアに取り組んでいただきます。
歯周基本治療で十分な効果が得られない場合には、切開により一度歯周ポケットを開いて、内側を徹底的にきれいにする、フラップオペなどの外科的治療が必要になります。
歯周病の予防
歯周病も虫歯と同じように予防ができます。
歯を失う可能性があり、比較的治療期間が長くなる歯周病を予防することは、患者様の健康を守り、ご負担を軽減することにつながります。
適切なセルフケアと定期的なプロケアで、虫歯とともに歯周病を予防しましょう。